鹿児島県開業 田崎拓昭
平成16年4月より17年10月まで発情なし、授精するも不妊とのことで往診依頼のあった黒毛和種牛の繁殖成績の比較検討(カルテから)について。
・調査頭数は718頭
・農家戸数は191戸(1〜4頭飼養の農家が117戸と多く、50頭以上の農家は2、3戸程度であった。)
・病名(卵巣静止等)ではなく、ホルモン剤(治療薬)で比較した。
以下、結果と考察について
PG(214頭) 注:カッコ内は治療頭数
・直検によりしっかりした黄体が触知できるときのみ使用した
・治療頭数214頭、妊娠率は63.1%と高かった。
・受胎牛におけるPG投与後授精までの日数は投与後3,4,5日に集中していた(121/135頭)。(その中にはPG投与後GnRH投与をしたのも含まれている。)
・発情についてはPG投与後1週間以内でほとんど出現するが10日かかるものいた。
・小規模農家が多く、発情の見落としがあった可能性が高い。
PGは授精率、妊娠率ともに高いが、多くは発情の見逃しによるものと考えられ、実際には卵巣が動いていると考えられる。
PMSG(83頭)
・BCS,卵巣状態がかなり悪く、卵巣萎縮と考えられる牛に対して用いる傾向にあった。
・投与後20日の牛まで記録に入っている。
・授精率は36.1%、妊娠率は21.7%と低い。
・83例中53例は発情が発見されなかった。その後、内9頭は自然発情がみられ、35頭はCIDRが用いられた。見逃しが多いと考えられる。
・1000単位を溶かして、溶かした8割程度しか投与しないので実際には800~900単位ほどを投与している。
PMSGは授精率、妊娠率ともに低いが、状態の悪い牛に対して使ったため、この数値でもそれなりの効果はあると考えられる。
CIDR(新または再利用)(93、80頭)
・エストラジオール(1cc)併用でCIDRは1週間留置で用いた。
・直検で黄体無しと診断された牛に対して用いた。萎縮ほどひどくはない状態→どの卵巣にも卵胞はあると考えられるので排卵につながる可能性が高い。
・妊娠率はDIDR新で、44.1%、再利用で38.8%が得られた。
・発情、授精までの日数は再利用のほうでばらつきがある傾向にあった。
・CIDRを抜くのと発情発見は農家任せ
CIDRの再利用は7日間なら使用の価値はある。妊娠率はそれほど高くない。
CIDRとのPG,GnRHの併用は費用的に難しい
Obsynch(185頭)
・黄体が無く、CIDR使用時よりも卵胞が大きいものに使用した。
・TAIであるが、授精時に授精師がいまいちな発情であると思われたものは授精されなかった。
・妊娠率は53.5%であった。
・黄体の確認は1stGnRH、PG投与時に行っており、2ndGnRH投与時には発情の有無を確認している(発情は約半分の牛できていると考えている、直検ではFを触知できることが多い)。
・2ndGnRHは夕方に投与し、翌日午前にAIとなるように指導している。
・1stGnRH投与後発情が来たものはまれであるがAIを実施している。
・PG投与時にFがさわれなくても投与後にはいい発情が来ることが多く、またCLが確認できなくても前あったFが無ければPGは投与している。
無発情牛に対して治療開始後65%の妊娠率なので応用価値はあると考えられる。
排卵障害(GnRH投与)(118頭)
・授精師に要治療と判断されて治療したもの
・妊娠率は71.2%
☆過剰診療であるかもしれないが、高価な精液を使用する際の使用は経済的にやむをえないか。
子宮洗浄(58頭)
・薬液注入ではない。
・GnRH投与と併用したのは5頭、未経産牛もいた。
・妊娠率は44.8%
牛の状態が様々なので一概に判定するのは難しい。長期不受胎牛には効果がある可能性がある。
その他
除外した23例について
・PG,CIDR等の重複した治療(4回以上)
・卵胞嚢腫である牛が9頭含まれていた。(卵巣嚢腫が最も再発が多く、治療効果の判断が難しい)
・このうち13頭が妊娠にいたった。
売却19例について
・空胎期間が長い、高齢である牛が淘汰される傾向にあった。
質疑応答
1:PMSGで発情がこないとき、その次の処置はどうするのか?
直検で黄体があれば(つまり発情の見逃しがあった)PGの投与で、その時黄体がいまいちだと考えられたらCIDRを入れる。その他オブシンクも行っているのもある。
2:CLの良し悪しについて、どのくらいの黄体が触知されたらPGを使用するのか?
黄体上に突起があればPG、なければ卵巣静止と考える。
一般に黄体は排卵後5日から触知できるようになる。また子宮の触診も加味して判断する。子宮が硬いとプロジェステロンが高く、やわらかいとプロジェステロンが低い。
3:CIDRについて
1、CIDRを留置するのは1週間、10日、2週間のどれがいいのか、またどう使い分けるか?
また抜いてからの発情に違いはあるのか?
CIDRを入れる際の卵巣の状態によって左右される。仮に同じ卵巣状態であれば1週間より10日の方が発情が強くなる。それは抜いた時の卵胞のサイズが大きくなるから。しかし、5mm以上のFがあるとき10日も入れておいたら卵胞のagingが進んでしまう。
2、他のホルモン剤との併用について
CIDR投与時にエストロジェンまたはGnRHを投与すると卵胞波がリセットされ、Fの発育に影響する。エストロジェンを投与すると2.5日で新しい卵胞波が発生し、GnRHでは1.5日で新しい卵胞波がおこる。プロジェステロンは約5.5日で感作が形成されるのでCIDRは便宜上1週間留置するということになっている。
3、CIDRとPRIDどちらがいいのか?
PRIDはエストロジェンのカプセルが入っているのでエストロジェンの投与の手間が省ける。PRIDは説明書には12日間となっているが、卵の老化が進む恐れがあるので最短では9日間でも大丈夫である。
高泌乳牛の繁殖生理について 宮崎大学 上村俊一
・牛の繁殖には視床下部−下垂体−卵巣軸が大きく関わっている。この中で視床下部には遺伝、ストレス、代謝病などが影響するが、われわれは直検では卵巣のみしか動態がわからない。
・一般的にPG投与後発情開始までの時間はPG投与時の卵巣の状態によって変化するが、スタンディング発情終了から排卵までの時間は一定して平均12時間程度、またスタンディング発情開始から排卵までの時間は一定して24時間程度である。また雄の精子の受精能獲得は6から24時間と大きな幅を持って異なる。
・近年、泌乳−栄養と繁殖モデルにおいてホルモン代謝の亢進と乳量との関係が明らかになってきている。
・泌乳量と繁殖昨日には以下のような関連があるとされている
1:発情前10日間において泌乳量が多い牛は発情時間が短い傾向にある
乳量55kg/day→発情時間2.8時間
30kg/day→ 14.7時間
1:発情前14日間において泌乳量が多い牛は多排卵(2つ以上の排卵)がおこる確率が高くなる。
多排卵は分娩後や暑熱ストレスなどによって起こりやすい。
・高泌乳牛ではたくさんの乳産生のために他の牛よりも高い血流量で維持されており、もちろん肝臓へも高い血流量がある。そのため、エストロジェンとプロジェステロンのホルモン代謝が亢進し、その結果エストロジェンとプロジェステロンの血中濃度が低下する。これは繁殖性の大きな変化につながる。
高泌乳牛では通常の牛よりも血中エストロジェンとプロジェステロン濃度が低いので黄体の退行後もエストロジェンが上がりきらず排卵が遅れ、卵胞が約20mm以上にまで成長する。またこのときLHパルスに長い間暴露されるので未熟な卵子や長期間成熟した状態になり卵子の老化がすすみ受胎率の低下につながる。
また排卵後もプロジェステロンの濃度の上昇が遅れ、黄体が30mm以上にならないとプロジェステロンが低いままとなるので、1発情周期が長くなる。
以下のような調査結果があることよりも上の理論は説明される。
未経産牛 経産牛
2waveの出現時間 55.6時間 78.6時間
黄体退行から排卵までの時間 4.6日 5.2日
排卵卵胞のサイズ 14.9mm 16.8mm
エストロジェン濃度 11.3pg/ml 7.9pg/ml
プロジェステロン濃度 7.3ng/ml 5mg/ml
黄体サイズ 小さい 大きい
CIDRを挿入した牛はPGの代謝が早いという実験結果より
つまり オブシンクは黄体の退行が早い
CIDRは黄体が退行しにくい よって高い受胎率の理由の1つになるのではないか?
「乳牛の事故多発防止計画」 橋之口 哲
乳牛に多発する疾病の3割以上を占めるものには、周産期病と代謝病がある。周産期病とは難産や後産停滞、産褥熱などが含まれ、代謝病はほとんどがケトーシスである。これらの多発を防止する目的で、分娩前の乳牛に強肝剤、カルシウム剤、ビタミン剤、そしてルーメンバイパス脂肪酸カルシウムを投与し、分娩直後と分娩後1ヶ月にそれぞれ血液検査を行った。
農家には1:BCSの改善、2:ケトーシスの予防(夏の食欲低下による)、3:Ca欠乏症の予防といった説明を行った。
血液検査の結果、対照群と試験群で有意差が見られたものはT-Choとヒドロキシ酪酸、およびアセト酢酸であった。特にヒドロキシ酢酸では分娩直後は対象群、試験群それぞれ604、703だったのが、1ヶ月後は847、764であり、ケトン体上昇を抑えられたといえる。
結論として産後は食欲が低下し、起立不能やケトーシス、四変になりやすく、大きな損失となる。しかし今回の試験によって産後の食欲が増加し、カロリー不足防止ができた。
Q.乳量の明らかな増加や農家の反応などは?
A.分かりやすい反応はいまのところない。
「症例報告」 鹿児島大学 窪田力
1:後肢断脚子牛
JB,去勢雄、10ヶ月、体重156キロ。中足骨骨折したのち、骨折部より末端がとれた状態で搬入された。X線検査の結果は完全骨折だが断端の骨がとがった状態で残っていた。
全身麻酔下、頸骨近位端で切断。切断部を肉で包み縫合。その後は体重も200キロを越し、順調に増体しているが、支える後肢に限界が来ている感じである。
2:CL16欠損症
JB,277日齢、158キロ。過長蹄が見られ、BUN,Creが異常な高値を示していた。剖検の結果、腎臓の顕著な腫大と尿細管の拡張。病理組織学的検査の結果、間質性腎炎、尿円柱がみられ、尿細管形成不全症(腎尿細管上皮の配列異常)と診断された。また遺伝子検査でもCL16欠損症(+)と診断された。
3:気管虚脱を疑う子牛
ホルスタイン、雌、62日齢、58キロ。徐角をして以来激しい呼吸音、喘鳴で来院。X線検査では気管の虚脱はみられず、内視鏡検査によって小角突起の炎症を確認。ステロイドで一時的に回復するがすぐに再発する。剖検の結果、小角突起の背側にヘイストローが刺さっており、そのために小角突起と輪状軟骨の間にアブセスを形成していた。喘鳴はこの部分で起きていたのではないかと推測される
Q.子牛に硬い草をやるのはどうなのか。自分は同じような症例の時に気管切開したが化膿して死なせてしまったのだが。
A.炎症の根本を知った上でのオペが重要。草選びはやはり重要。乾燥よりもむしろ濃厚飼料でルーメンを育てるほうがいい。今回は除角の際に数本飲み込んだのであろう。
4:鼓張・排糞障害牛
JB、10ヶ月、260キロ。腹腔内下垂、下腹固く、水様便のみ排泄で食欲なし。6日間治療するも改善なし。オペを行ったが腹腔の癒着が重度で内部には大量のアブセス、結合組織存在し、オペを断念しそのまま剖検へ。病理組織学的検査の結果、重度の慢性化膿性炎、および結合組織癒着による通過障害と診断。
5:血尿・排尿障害牛
JB、9歳、雌、5産。血尿をしていて、食欲なし。群れから孤立。触診により腎腫大、エコ−により腎臓内にシストを、膀胱頚部にマスを確認。血液検査の結果、BUN>140 Cre>24
血餅と尿沈査は赤血球と壊死した白血球が主体であり、移行上皮塊はあるが異型性はなし。
剖検の結果、腎臓は慢性間質性腎炎、貧血梗塞が見られ、膀胱頚部は移行上皮癌(奨膜側に異形成)と診断された。
北海道 ラボジェネター 岩本
以前は馬の飼育を行っていたが、牛の飼育に切り替えた。繁殖母牛は130頭。牧草の販売を行っている。
牛舎の屋根は縞々の屋根で、片側だけ透明にするという工夫が施されている。
カーテンを利用して換気を行っている。
床管理を最も大切にしており、牛舎の床には牧草が分厚く敷き詰められている。また、床はコンクリートではなく、火山灰を用いて作られている。
子牛は1〜3週間で離乳をさせ、その後、カーフハッチ、哺乳ロボットにより授乳を行う。牛に与える水は35度くらいに保っている。その方がよく水を飲むためである。
今後の問題点として、頭数が増えた場合どのように手を抜くかということが挙げられる。
質疑応答
Q.床に敷く多量の牧草はコストがかかるのでは?
A.牧草の販売も行っているため、贅沢に牧草を使うことができる。
NOSAI鹿児島 赤星 隆雄
Case1
肥育約1年の個体。初診時、息が荒く呼吸困難。体温は40.6度。
牛を捕まえると、30分後に死亡。1年に1頭くらいの頻度で毎年のように似た症例が発生する。
Case2
軽度の慢性鼓張。油、ワゴスチグミン、プリンペランを投与するが効果なし。呼吸器症状を呈する軽度鼓張が2日続く。咳、鼻水を伴う。BTは約40。後面も軽度鼓張。ストレプトマイシンでとりあえずは治るが、根本的には治らず。
Case3
難産。介助するも死産。家畜保健所に送る。脳に変化が見られたが、死後変化の可能性も高い。
母牛は数日前から不食。
Case4
開口呼吸と咳がみられる子牛。加療すると2〜3日で回復するが再発を繰り返し、1ヶ月断続治療。加療内容は輸液、デキサ、パンカル、レバギニン、キモチーム、バイトリルなど。
Case5
慢性下痢、呼吸器症状、咳が見られる子牛。前例同様、治療すると治るが、止めると再発。緑色水様便。
Case6
血便。BT40.6。
Case7
膣脱。膣粘膜をメスで切り、脂肪を排除し、縫合。その作業を2回行った。
Case8
膣脱。烏が膣脱を食い破ってしまったが、自然分娩が行われた。
Case9
反転性裂体。帝王切開で取り出す。一時、心臓が動いていた。
Case10
耳が小さい。治療を止めると数日で死亡。
Case11
3ヶ月で突然CL16発症。血統をみても明らか削蹄済みなのにもかかわらず、前蹄も後蹄も伸びてしまっている。血液検査では、ビタミンA値が高い。餌食いは良い。治療を止めると死亡。
Case12
4肢とも変形した子牛。
質疑応答
Q・ 膣脱をメスで切って脂肪を出すというのは初めて聞いたが、一般的な方法なのか?
具体的には、膣上壁をメスで裂き、こぶしを入れて脂肪を取り、除角リングをかけてゆるんだ部分を壊死させる。すると炎症が起こって、無菌的にふさがり、治る。妊娠中は行わない。再発もたまにある。子宮頚管が出てきてしまったら手術してもだめ。
しかし、手術やなにかより、まず飼料管理を徹底することが大切なのではないか。粗飼料を減らして濃厚飼料を増やすなど。
Q・ 膣脱の中に膀胱が入ってきてしまっている場合はどうしたらいいか?
A. 膣脱により尿道口が圧迫されて尿がでなくなってしまっている場合、とりあえず尿を出してやる。その後治療を行ったほうがやりやすい。あまり無理に行うと膀胱破裂の恐れもあるため注意すること。
・ 血統的誘因があるのでは?
A.経験上では多少ある感じがする。特定の系統の子牛によく発生するといったことはあるので。
・ リングをはめる時、大変な力がいって困る。技術的な事を教えて欲しい。
A.皮膚だけ入れてはめれば比較的楽にいく。
手ではめられるような柔らかいリングがあるので、それを用いたらどうか。
ぎりぎりまでしめてから、最後だけ力を入れると良い。
・ 膣脱が起こるものは子宮も出やすいので、早めに産ませないと後のフォローが大変。
・膣脱の内、糜爛したりしているものは触らないほうが良い。